「今日の一曲」の第39回目。
ここのところ、都合もあって続けて紹介していた70年代前半頃のSPレコード盤からは一旦離れることにしよう。
いつものLP盤へ・・・。
今日ご紹介の曲は、モーリス・ラヴェル作曲、バレエ組曲「ダフニスとクロエ」。小澤征爾指揮、ボストン交響楽団、タングルウッド・フェスティバル合唱団による演奏で、1975年収録のLPレコード盤だ(上の写真)。
実際にこのLP盤を手にしたのは2001年頃だったと思う。
クラシック音楽のレコード盤で「ジャケ買い」はまずあり得ないことなのだが、この盤は「ジャケ買い」だ。
そろそろ、この頃のことについても書き記しておこうかな・・・。
体調の異変に少し気付きはじめた?頃だ。
職場では重要な責任を担うようになって7〜8年が経っていた。
今になって振り返ると、その責任だけでなく、自分自身でも勝手に、「良い仕事を」、「質の高いものを」、「社に貢献を」、「家庭・家族を裕福に」・・・などなど、更に自ら課していた。知らず知らずうちに大きなプレッシャーにしてしまっていたのだろう。
もっと言えば、一番いけないのは、単純に自らに課していたのなら未だしも、何かしらの「見返りを期待」していたことが最悪を招いたと言える。
今なら、わかるのだけどなぁ〜。
が、当時は、疑わずにまっしぐらに突き進んでいた。周囲からも評価されている声を聞き、これらを鵜呑みにして思い込んでいた。愚かだね〜。
少しの休日に、少しの休養のために、音楽を聴くことがもう手段になっていた。これは、もう危険信号が点滅している状態なのだが・・・。
もちろん、身体は異変を察知し始めてサインを発していたのだ。身体を動かなくしようとしていた。つまり、疲労感が常に襲い、思うように身体は動かなくなり始めていた。
「少しは休養をとらいないと・・・」という程度にしか自覚していなかった。「たまには定時に退勤しなくては・・・」と想い出すかのような自覚が精々で、まともに退勤した日のほんのたまぁ〜に、仕事帰りに、これより数年前から休日などに出掛けて行った下北沢の中古レコード店に立ち寄るようになった。
そう、90年代後半には、完全にCDの時代になっていて、アナログ・レコード盤は中古レコード店に行かなければ手に入らなくなっていた。
が、その中古レコード店に足を運んでも、どんな音楽、どんな盤を探したらいいのか、もうそんな思考も働かなくなるほどの身体の不調に陥っていた。例のごとく、レコード盤を摘まみ上げて探る手元の素早さは、もはや無く、無気力にも近い状態だった。
それでも、ふと、摘まみ上げたLPレコード盤のジャケットが目に留まった。
今日ご紹介のLP盤だ。
深みある鮮やかな赤い背景に、太陽を描いたのか中央に大きな黄色い大輪の絵柄はインパクトがあった。この大きな絵柄全体をバックにしてステージに立つバレエ・ダンサーたちがやや小さく見えて写っている。
輸入盤だ。
少し目をこらしてアルファベットの文字を追うと・・・
ラヴェルの「ダフニスとクロエ」、若き日の小澤征爾がボストン交響楽団を指揮したときのもののようだ。楽曲は聴いたことはあったが、盤では持っていなかった。
きっと、少しだけニンマリできた一瞬だったと思う(笑)。
自宅に帰って早速、盤に針を乗せて聴いてみると、様々を考えずに聴ける音楽だった。このことがとても心地好く感じられた。少しだけ、バレエのそのシナリオをイメージして聴いてもいた。特に、3部の中間部から終盤に掛けては、気持ちを優しくにも、豊かにも、そして、少しの元気ももらえたような気がした。当時のことだ。
が、まっしぐらに突き進むことに囚われて、こんな風にごまかしながら過ごして、きちんと立ち止まって自身を直視しなかったために、自覚するより先に身体の異変はますます悪化する一方だった。
この2年半後には一度目の休職(二度目もあるのだよ)をして治療に専念することになってしまう。音楽までも一旦聴けなくなってしまうのだが、おそらく、そうなる前に手にした最後のLPレコード盤だったかと思う。
クラシック音楽のレコードさえ「ジャケ買い」になってしまったのだが、ひと時の救いであったことに違いはない・・・ラヴェル作曲、バレエ組曲「ダフニスとクロエ」、小澤征爾指揮、ボストン交響楽団、タングルウッド・フェスティバル合唱団による演奏、そのLPレコード盤を、「今日の一曲」として紹介させていただいた。
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