今日の一曲 No.104:ジョン・レノンとオノ・ヨーコ(John Lennon & Yoko Ono )「ハッピー・クリスマス ~戦争は終わった~(HAPPY XMAS ~WAR IS OVER~)」

「今日の一曲」シリーズの第104回です。

12月、華やかに彩られた街中の風景を眺めていては「今年も『この季節に』なったんだなぁ~」と、これを私の中の大部分は穏やかな気持ちで受け止めているのですけれど、一方で、『この季節に』こそ聴きたくなる一枚のLPレコード盤に収録されたある一曲を想い起こしては少しだけ神妙な思いにもさせられてしまうのです。

それは、この国では宗教的行事云々よりも国民の多くが好意的に受け入れているイベントとしての方が色濃いそれへの関心として、幼い日から私なりに大切に温めてきた思いよりも、依然として、『彼に対する後ろめたさ』みたいなものの方が今尚僅かに上回っているからなのでしょう。

第104回としてご紹介するのは、当に、そのLPレコード盤とここに収録されたある一曲で、今回はこれに触れながら、諸々語らせていただこうと思います。

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《1.衝撃のニュース》

1980年12月8日(日本時間では12月9日)、彼が銃撃されて亡くなったというニュースが流れたとき、ほんの少しだったはずの「彼に対する後ろめたさ」は、私の内側で、それはどうしようもないほど大きなものになってしまった。

この1ヶ月前、「ダブルファンタジー(DOUBLE FANTASY)」という彼のアルバムがリリースされて、これを買おうか買うまいか迷いに迷ったあげく、結局、その結論を先送りにしたままでいた。

当時は大学生生活の2年目、これはこれで充実した毎日を送っていたはずだった。が、耳にしたそのニュースに、自分自身では気付いていなかった浮っついたようなもののところに、鋭い何かが突き刺さった感じがした。

 

(なぜ「買おうか買うまいか迷いに迷った・・・」のか? このことを現在に至って振り返ってみると、それは「今日の一曲 No.89(2019/03/26公開)」でも触れたように、ビートルズの音楽を聴くことができなくなってしまったその延長線上に、彼と彼のアルバムもまたそこにあったから・・・じゃないかなぁ~と)

 

こうしてニュースが報道された後の、数日を経ても、数ヶ月を経ても、1年を経ても、彼のそのアルバムを買って手にすることはなかった。・・・むしろ、時が経つほどに、

【今更、買うなんてことをしてはいけない】

といった、当時の私はそんな思い込みを強くしていった。

 

(ん?暗い?・・・そうねぇ、暗い奴かもぉ~。でも、当時はそれほどまでにショックだったんだよなぁ)

 

《2.妹の誕生とクリスマス》

さて、時は遥かにこれを遡って・・・我が幼い日の出来事だ。

「クリスマスっていうのがあるんだって・・・」

「サンタクロースって何?」

の問いに、母の顔が曇り出した。ほぼ同時に、父の目元もまた不機嫌そうな様子に変わった。

【しまった、いけないことを言ったんだ・・・】

と直ぐに感じて、それ以上は口をつぐんだ。

父の手が飛んで来なかっただけでも助かったぁ~と思うのだった。

こんな瞬間の4歳頃の記憶というのは鮮明だったりする。

・・・・

が、妹が生まれると、我が家も少しずつ和やかな空気に包まれていくのをそれは子どもながらにも感じた。

そして、妹が3歳になる頃までには、12月25日の我が家にもどうやらサンタクロースなる者がやって来て、その形跡を残こしていってくれるようになった。

【妹が生まれて良かったぁ~】

と、何度もそう思った。・・・この事もだけれど、これ以外の事でも色々と。

こうして、口をつぐんでその危機を脱したときの記憶に戸惑いながらも、幼少期から小学生の頃までの私にとっては、クリスマスもサンタクロースも、それは家族4人が過ごすこの家の「平穏さ(平和)」を感じることのできる象徴的な行事として、またこれを確認する意味でも、大切な日となった。

この感覚は、中学生や高校生になってからも、あるいは大人になってからも、友人たちとクリスマス・パーティーなどをして愉しむようになってからも、イルミネーションに彩られた街へと仲間らと繰り出すようになってからも、そこに居ては、

【こんなふうに楽しめて、はしゃいでいられて、いまこの瞬間には「平穏(平和)」があるんだなぁ~】

といった、そっと我が身を包み込んでくれるかのような温かな感触と、が、同時に、「平穏(平和)」なるものをいちいち心の内で噛み締めては浮かれてしまいそうになる自分を戒める、やや面倒な癖とも思えるものも一緒にこの身に残した。

 

(あれまぁ。愉しむべきときは、素直に楽しめばイイのにね~。厄介な奴だね)

 

《3.一大決心をして購入した盤》

1982年(11月?)、彼の死からもうすぐで2年が経過しようとしていたその頃だった。彼のアルバム「THE JOHN LENNON COLLECTION(日本版)」が全国のレコード店に置かれた。

この当時の私めは大学4年生で、やたらとハードな卒業研究の、それも仕上げの段階にそろそろ入ろうとするときでもあり、実験結果の分析や論文書きに没頭せざるを得ない時期にあった。

が、

【こんどこそ迷ってなんかいられない】

と、このアルバムを買うためにそれは一大決心をして、例の(「今日の一曲」シリーズではこれまでも何度も登場している)船橋市と習志野市の境くらいのところに在るレコード店へと向かった。

・・・・

現在、ここに手にしているアルバムは当時のそのLPレコード盤だ。

「THE JOHN LENNON COLLECTION(日本版)」は、ビートルズ解散後のジョン・レノンがソロ活動をしていた1969年~1980年、この間に制作されたアルバムのこれらに収録された曲の中から、各アルバムのレーベルを超えてあらためてセレクトしてその曲たちを並べたアルバムだ。

A面には・・・

「GIVE PEACE A CHANCE」、「INSTANT KARMA」、「POWER TO THE PEOPLE」、「WHATEVER GETS YOU THRU THE NIGHT」、」「#9 DREAM」、「MIND GAMES」、「LOVE」、「HAPPY XMAS ~WAR IS OVER~」

B面には・・・

「IMAGINE」、「JEALOUS GUY」、「STAND BY ME」、「(JUST LIKE)STARTING OVER」、「WOMAN」、「I'M LOSING YOU」、「BEAUTIFUL BOY(DARLING BOY)」、「WATCHING THE WHEELS」、「DEAR YOKO」

が収録されている。

 

ところが、「一大決心をして」これを買いに行った割には、その後の私めは我ながら情けないのだった・・・(汗)。

買っただけで、これを聴くことがずうっとできずにいた。そして、「このアルバムを聴こう!」とLPレコード盤の上に最初に針を置いたのは、買ってから20数年もの月日が過ぎてのことで、もう、2003年の年の瀬にも迫った頃だった。

これほど長きに渡って部屋のレコードラックに放置してしまった言い訳は、冒頭に書かせていただいた内容でご察しいただきたい・・・。

 

(あっ、いや、察していただくには少々心苦しい面があるような・・・。無理に察していただく必要はないのでご安心を・・・。それにしても、20数年も掛かってしまったことに、今更ながら情けなく思うよ。が、一生そのままでなくて良かったぁ~)

 

《4.一番に心地好いと感じたクリスマス・ソング》

「2003年の年の瀬も迫った頃」というのは、私の人生では大きな事件の一つ、しかも決して良い事とは言えない出来事の始まりだった。

それは、ここに至るまでに2年が経過しても完治しないある病気を抱えながら、職場では重責を担う立場に就いていて、当然のことながら家族を食べさせていくことへの責任もあって、これらを言い訳に、身体で起こっている真実をごまかしながら社会生活を送っていた、これが、遂に、その限界を超えてしまったときだった。身体も、心も。

社会からはリタイヤせざるを得ない状況となって、当時に就いていた仕事はここから約3月半に渡って休職することになった。取りあえずは自宅療養をして様子を見ることになったものの、殆んどは布団に横たわっているしかない状態でいた。

ただ、ほんの時折少しだけ体調が良いと、手元近くに置いたラジオをFM局のどれかにチューニングしては流れてくる音をざっくりと拾うくらいのことはできた。

 

ある日、そのラジオから、それは丁度季節柄たまたまクリスマス・ソングなどを特集した番組だったのだろう、これらをテーマにした歌や音楽が流れてきた。始めのうちは聞こえてくる音に熱心に耳を傾けるでもなく、布団に身体を横たえたまま流れてくる音に任せてBGM感覚でいたのだけれど、暫くすると、ある一曲が耳元まで確りと届いてきた。

 

”Happy Xmas Yoko”

”Happy Xmas John”

So this Is Xmas

And what you done

Another year over

And a new one just begun

・・・

・・・・

「あぁ~、いいなぁ~」

きっと、一人で呟いたと思う。

ラジオからその日に聞こえてきたクリスマスをテーマにした歌や音楽のなかで、一番に心地好いと感じた。

・・・・

「もう一度聴きたいなぁ~」

・・・・

「ん~っと、確か、あそこに入れっ放しだよなぁ~」

・・・・

布団に横たわっていた我が身をどうにか起して、同部屋に置いてあったレコードラックの前へと身体を運んだ。そこでは身をしゃがませて、ラックの中に放置し続けていた一枚のLPレコード盤を探すのだった。

こんな数分間の作業もこのときには重労働であったのだけれど、お目当てのLPレコード盤をとうとう見つけ出しては、これを手に持った。

「このアルバムを聴こう!」

 

 ♫

 ・・・

And so this is Xmas

I hope you have fun

The near and the dear one

The old and the young

 

A very Merry Xmas

And a happy new year

Let's hope it's a good one

Without any fear

・・・

 

もちろん、この日のラジオから流れてきたそれも、部屋のレコードラックから取り出してきた盤のそこから聴こえてきた音たちも、同じはずのこの一曲については、このずうっと前の中学生や高校生の頃からこの耳に聞こえてくることはあったのだけれど、自身の内側へと入り込んで来ないように無意識にも盾を持って抵抗し続けていたに違いなかった。

だけれど、この日に限っては、ラジオから聴こえてきたこの一曲からも、20数年間も部屋のレコードラックに放置し続けてきた盤のその一曲からも、そこから聴こえてくる彼の歌声も、その彼が愛した彼女の歌声も、ここに加わっているバックコーラスの子どもたちの自然な歌声も・・・、それはそれまで私が抱え続けていた・・・幼い日のクリスマスへの戸惑い、その後のそれは社会人なってからも愉しむ瞬間にさえ浮かれまいとする自身への戒め、何よりも「彼に対する後ろめたさ」、これら全てを消し去ってくれるわけではなかったけれど、そのうちの多くを許してくれるかのように聴こえてくるのだった。

 

(いやぁ~、でもホント、当時はこれに救われたよ。ぅん、救われました!)

 

以来、毎年『この季節に』なると、レコードラックからこの盤を取り出すようになった。

 

「今日の一曲」の第104回として、104枚目にご紹介しているこの盤とともに、ここに収録された一曲として挙げるのは・・・「ハッピー・クリスマス ~戦争は終わった~(HAPPY XMAS ~WAR IS OVER~)」だ。

この曲、正式には「John & Yoko Plastic One Band with the Harlem Community Choir」による演奏ということらしいのだが、1971年にシングル盤のA面曲として発表されて、1975年発売のコンピレーション・アルバム「SHAVED FISH」にも収められている一曲でもある。

1982年にリリースされたご紹介のアルバム「THE JOHN LENNON COLLECTION(日本版)」では、A面の最後に収録されている。

 

《5.今の自分にできる「ハッピー・クリスマス」とは?》

「2003年の年の瀬も迫った」その隣の部屋からは、クリスマスが近づいて日々何かと興奮気味にはしゃぐ我が子二人(中学生の長女と小学生の長男)の声がそこから漏れて聞こえてもいたのだけれど、この我が子二人もまた、布団に横たわる私の傍では、その楽しく興奮した気持ちを抑えて気遣うのだった。

当時のその当初、私は、我が子のこうした様子を目にしては、何もできなくなった自分を余計に責めた。自身自らが我が子の「平穏(平和)」を奪ってしまったように思えてならなかった。いや、実際、現実的にもそうであったのだ。

が、それを、このJohnとYokoの「ハッピー・クリスマス ~戦争は終わった~(HAPPY XMAS ~WAR IS OVER~)」は、またそれさえも徐々に解して許してくれるのだった。

もちろん、私にとってだけの、それは都合の良い解釈でしかないのだけれど、

【何もかも今は委ねよう・・・】

それが、「この時点で今の自分にできる『平穏(平和)』への道」であり、「ハッピー・クリスマス」なのだと・・・。

 

(そうね、これは正解とか不正解とかではなくて・・・、何を、どうあがいたところで、どうしようもないと思えたなら、そのときは何もかも委ねてしまうしかない、委ねてしまうのがイイ・・・と、このときのことを現在になってから振り返って考えてみても、そう思うんだよね~)

 

・・・

And,so this is Xmas

For weak and for strong

For rich and the poor ones

The world is wrong

And so happy Xmas

For black and for white

For yellow and red ones

Let's stop all the fight

・・・

 

現在、あれから更に数えること16回目のこの季節を迎えている。

「今年もまた『この季節に』なったんだなぁ~」

と感じられていることの幸運に、まずは心から感謝する。

 

その上で・・・、

世界規模の問題にも、日本国内の問題にも、各個人の直ぐ近くで起こっている問題にも、それはできる限り正しく誠意をもって見つめて向かい合おうと思う。またこれらの問題を専念的に解決していくだけではなくて、どの問題にも目配せを効かせた解決の仕方をより多く見出していくための道も探っていこうと思う。様々な立場にある人たちと皆で手を取り合っていくような世界を理想に描きながら、これらに取り組もうと思う。

 

(ん?あれ?・・・むしろ、「イマジン(IMAGINE)」っぽい?)

 

それには、ただ望むばかりでなく、先ずは自分自身がここへと繋がっていく行動を一つひとつ起こしていくことかと。有難いことに、お蔭様で、そんな「平穏」・「平和」をイメージすることが現在の私にはできるのだからね。

 

なんだか、ごちゃごちゃと偉そうなことを述べてしまったけれど、2019年12月もまた、レコード盤に針を置いてこの曲を聴こうと思う。

きっと、「彼に対する後ろめたさ」みたいなものは、現在もまだ、ほんの少しだけ残っている。

でも、そのくらいの神妙さがあってこの曲を聴くのもイイかも知れないね~。

 

「今日の一曲」の第104回は、アルバム「THE JOHN LENNON COLLECTION(日本版)」のLPレコード盤から、ジョン・レノンとオノ・ヨーコ(John Lennon & Yoko Ono)の「ハッピー・クリスマス ~戦争は終わった~(HAPPY XMAS ~WAR IS OVER~)」を取り上げて、諸々語らせていただいた。

 

いつもの長文に加え、今回は重たい感じの内容となったのだけれど、これを最後までお読みいただいた皆様には心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

 (*ちなみに、音楽的なことに着目したなら「MIND GAMES」または「IMAGINE」について語ったかと思います。)